途中日本の報道陣の人達を見かけた。
今日の事件は日本でも大きく報道されているに違いない。
何とか日本に連絡を取れないだろうか。
しかし恐らくこの分ではインターネットカフェも閉まっている可能性は極めて高いし、
とにかく今日は事態を確かめに行こう。
百聞は一見に如かず。
僕にはどうしても気になった場所があった。
ワールドトレードセンターの姿が確認でき、且つ危険でないであろう僕に馴染みのある場所だ。
そこまで行ってみよう。

貴重な開店しているお店を見つけたのでそこでグリルチキン・サンドウィッチを買い、マジソン・スクエアでちょっと小休憩。
不思議と周りは冷静な気がする。
公園内はセントラルパークと同様、多少の緊張感はあるもののいつもと変わらない様子だ。
僕は再び歩き出し、ドイツ語の講義に通っていた校舎まで歩いた。
その近くの6番街の角で、僕はよく信号を待ちながらダウンタウンの夜景を眺めていたものだ。
6番街に着いた。

「・・・。」

無い。
ビルが2本とも全く無い。
全く視界から消えている。
ビルが崩壊したと聞いたから勿論ある程度諦めていたが、下層部くらい残っているのではないか、近くまで行けばそれが見えるのではないか、といった期待を少なからず持っていた僕だったが、裏切られた。
愕然とした。
煙が風で流されても下層部は全く見える気配がない。
もっと近づかなきゃいけないのだろうか。
僕はひたすら歩いた。
ひたすら南へと。
あの見慣れたツインタワーを見たい、その一心だった。

家からトータルで10km、いや、軽く12kmは歩いただろうか。
キャナル・ストリートでは多くの人々がビルの方向を見つめていた。
ものすごい量の煙が確認できた。
ここで警察のバリケードが張られていて多くの人が足止めされていたのだが、南の方にもまだ多くの人が路上にいる。
どうやら内緒でもっと近くまで行けるらしい。
たまたま合流したチャイナタウンの住民たちと一緒に、近くの駐車場を経由してさらに南へと歩いた。

ワース・ストリートが最南端だった。
ウエスト・ブロードウェイと交わる場所に僕はいた。
ここはワールドトレードセンターから約800m。
多分まだ安全とは言えないであろうこの場所に、多くのニューヨーカーや報道陣が群れをなしていた。
ツインタワーから逃げてきたという男性に色々話を聞いた。
燃えかけた書類のような物も見せてもらった。
あえてもう書かないが、とにかく凄まじい惨事だったというのが伝わってくる。
彼もまたその他の人々と同様、心配そうに煙の方を見つめている。
とにかく煙が凄い。
これでもかというほど大量の煙が青空に湧きあがっている。
全く尽きることなど無いかのように。
煙に隠れて分からなかったのかもしれない、しかしタワーの根元は、やはり確認できなかった。
恐らく完全に、消滅したのだ…。

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