公園から街に出ると、アッパーウエストサイドでは見られなかった光景が、一気に目の前に広がった。
道路は大渋滞、市バスは超満員、歩道は歩行者で溢れかえっている。
若いアフリカ系アメリカ人が持って歩くラジカセからは、いつものラップやレゲエではなくニュース速報が聞こえてくる。
遅くなる前に日本に電話を入れようと思うが、公衆電話は長蛇の列。
また国際電話用のフォーンカードを売っている店を探すも、辺りは軒並み閉店だ。
従って携帯のバッテリーも買えない。
ミッドタウンの閉店率は、アップタウンのそれより格段に高い気がする。
めげずにカーネギーホールへ音楽会のチケットを取りに行く僕。
ところが、例に漏れずここもクローズ。
諦めて次は隣りのカーネギータワーにオフィスを構える旅行店へ。
ここでは厳戒態勢のため、従業員がロビーまで降りてきて客の顔を確認してからオフィスへ連れて行く、という形をとっていた。
週末や祭日のマンハッタンのオフィスでは当たり前の形式だが、やはり異様なのに変わりはない。
来週必要な航空券の予約に訪れたのだが、そこでは各航空会社・空港の混乱振りについて教えてもらった。
ほとんどの航空会社がオフィスを閉じていて、予約は取れるものの発券については最低2、3日は様子を見ないといけないとのこと。
それ以上は分からなかった。
交通機能の麻痺は、どのくらい続くのだろう。

そのすぐ近くにある楽譜屋へも寄った。
客は僕を含めてわずか2名。
周りの店舗がこの状況でも開店しているのには驚いた。
ところで、NYでは「明日」の新聞が読めるというのがいとをかし。
と言っても日本の朝日や読売、日経新聞のことだが。
日本のプロ野球の結果が気になったし、閉店は覚悟しつつも紀伊国屋を覗くことにする。

ロックフェラーセンターは警官で完全に封鎖されており、本屋も閉まっていた。
ロックフェラーセンターもNYのシンボル的コンプレックスなので、そのすぐ側のお店の閉店は当然と言えば当然か。
ここにきて真剣に大規模テロリズムを実感した。
ということはやはり旭屋も…

閉店だった。

OCS書店も…
閉店。

そしてメト・ライフ・ビル、グラセン(グランドセントラル駅)も全面立ち入り禁止。
「マジで?!ということは…。」
悪い予感がした。
グラセンすぐ北にある高層ビルも全面閉鎖。
「今日歯医者の予約があったのに…。」
長きに渡って装用してきた矯正機がようやく取れると、心待ちにしていた日だったというのに…。

仕方がない。ここまで来たんだ。
行ける場所まで行こう。
行って真実を確かめよう。
思えば44人の犠牲者を出した先日の歌舞伎町の火事のときも僕はたまたま前日にその雑居ビルの前を通っていたし、三重県の実家に帰ってきた直後には同じ団地で火事心中があった。
そして再渡米翌日のこれ、だ。
僕はいったいなんなのだ。
呪われてでもいるのだろうか。
街で聞いたが大リーグも中止になる見通しだそうじゃないか!
こっちの予定が何から何までぐちゃぐちゃだ。
今日も暇になっちゃったし家に帰っても電話もテレビも無いし、今日は歩くぞ!

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